こんにちは、凡才博士です。梅雨入りで曇りが多く、あまりいい気分にはならないものですね。
本日は研究費の情報共有という事で防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」について紹介しようと思います。実は私も応募しようかと思ったのですが、申請書を書いた後、訳があり応募を取りやめる事となりました。しかし若手研究者にはちょうど良い制度かと思いましたので、今回紹介させて頂きます。
安全保障技術研究推進制度とは?
安全保障技術研究推進制度は科研費やJST,NEDOのような公募の一つでして、研究費の出どころは防衛装備庁(ATLA:一応研究者の間ではアトラーと呼んでいます。)になります。これから応募しようと考えている方は、詳細な募集要項は防衛装備庁のHPをご覧ください。
この公募の内容をそのままWebから引用してきますと、以下のような理由で公募を募集しています。
我が国の高い技術力は、防衛力の基盤であり、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、安全保障に関わる技術の優位性を維持・向上していくことは、将来にわたって、国民の命と平和な暮らしを守るために不可欠です。とりわけ、近年の技術革新の急速な進展は、防衛技術と民生技術のボーダレス化をもたらしており、防衛技術にも応用可能な先進的な民生技術、いわゆるデュアル・ユース技術を積極的に活用することが重要となっています。安全保障技術研究推進制度(競争的資金制度※)は、こうした状況を踏まえ、防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な民生技術についての基礎研究を公募するものです。
安全保障技術研究推進制度の概要より
私自身は申請書も書いたため、令和3年度の公募要領全文を読みました。研究者にとってかなりよさそうな公募内容でしたので、以下にポイントだけをまとめて記載いたします。
公募している研究テーマが幅広く、基礎研究を中心としている
まず、お勧めできる点の一つとして公募している研究テーマが多岐にわたります。私自身は防衛装備とは関係のない研究をしておりますが、キーワードを拾っていくと意外とどこかのテーマに紐づけられる研究があるかと思います。例として既に募集が完了した令和3年度の公募テーマ一覧を下記に示します。こう見るとかなり手広く募集しており、関係する研究を行っている方も多いのではないでしょうか?テーマの詳しい内容は募集要項でご確認ください。
そして、テーマの末尾に全て記載されていますように、この公募は基礎研究をメインとしています。大学での研究は(役に立たない?)基礎研究が多いかと思いますので、大学の研究の続きが出来る若手研究者にはありがたい制度ですよね。また、この制度は「革新性を有するアイディアに基づき、科学技術領域の限界を広げるような基礎研究を求める。いわゆるハイリスク研究も推奨」と明言されていますので、科研費のように失敗しても許されるような風潮があります。こちらも自由なアイディアで考える若手には嬉しい内容ですよね。しかし本制度は基礎研究が対象であって、応用研究や開発が対象外となっています。そのため、何か世の中向けて波及効果がある基礎研究を提案できると良いですよね。
科研費若手よりも研究費が多い
上記に応募区分をまとめたものを示させて頂きました。区分としてはタイプS,A,Cとあり、Sは大規模研究ですね。こちらは大先生が共同研究で行っていくようなイメージで科研費のAやSに近いものがありますね。(もちろん書く書類もタイプSが一番多いです。)正直タイプSは大規模研究ですので、凡才博士のような若手にはとてもやる気にはなりません。そこで若手が狙える枠として、タイプAとCがある訳です。AもCも研究費では年間で1千万以上貰うことが出来ますので、金額として若手には有り余る研究費ですよね。その点が科研費の若手と比較して魅力的な点であります。さらにタイプCはタイプAより小規模な研究という事ではなく、独創的なアイディアに基づいたチャレンジングな研究であるべきとの事です。さらに準備状況は不問との事で、アイディアさえ良ければ受かるという事ですかね。ここら辺の文言を見ますと、かなり若手に優しい募集となっていますよね。しかし独創的でチャレンジングなアイディアを出すこと自体が難しいのですが。。。そのため、私自身はタイプCでの応募を予定していました。
内定が速く、科研費とのスケジュールが重なっていない
令和3年度の応募スケジュールを抜粋してくると、以下のようになります。
この公募は科研費と同じく、e-Radを使ってWeb上で申請を行います。皆さんご存知かと思いますが、同じアイディアで異なる公募に同時に出すことはできません。しかしこの安全保障技術研究推進制度は、上記に示したように内定がかなり時期が早く、8月に公表されるようです。前回の記事で、若手の科研費の内定が早まりましたが、そこにも被っていないですよね。そのため、この制度に応募してダメだった場合、同じアイディアで科研費への応募が可能という事になります。ダメなら同じ内容で次にチャレンジできるのは良いですよね。若手には大変ありがたいスケジュール感です。
安全保障技術研究推進制度の倍率は?
防衛装備庁のHPに応募総数と毎年の採択数が公開されていますので、過去3年分の採択率をまとめてみました。
(%) | タイプS | タイプA | タイプC |
令和2年度採択割合 | 20 | 9 | 32 |
令和元年度採択割合 | 50 | 19 | 40 |
平成30年度採択割合 | 37 | 14 | 42 |
こう見てみますと、意外とタイプAが厳しい戦いになっていました。特にタイプは応募件数が多くなっているので、タイプSよりか激戦になってくるのですかね。一方少額枠のタイプCの倍率はそこまで高くない事が分かります。科研費若手の採択率も40~50%程度と言われておりますので、同等レベルの採択率になっていますね。よって私の当初の予定では、代表研究者を私一人として単独応募で一番受かりやすそうなタイプCに応募する予定でした。
凡才博士はなぜこの制度には応募しなかったのか?
これまで、この制度のメリットばかりを上げてきましたが、私にとってのデメリットがあったためこの公募には応募しませんでした。申請書まだ書き上げたので、最後まで応募するかどうか迷いましたが、色々考えた結果辞めました。
この公募について調べていて少し嫌な噂があったのですが、いざ申請しようとしたところ取りまとめているスタッフからこの公募が少しいわくつき公募である事を聞かされました。私も少し思い当たる所があったのですが、HPの記載にしても少し他の公募とは事情が異なる事が見えてきます。防衛装備庁のHPに行くと、以下の文言が赤枠で囲われているわけなんですよね。
・受託者による研究成果の公表を制限することはありません。
・特定秘密を始めとする秘密を受託者に提供することはありません。
・研究成果を特定秘密を始めとする秘密に指定することはありません。
・プログラムオフィサーが研究内容に介入することはありません。
このような文言は科研費では当たり前と言うか、成果の公表をわざわざ強調する必要がどこにあるのだろうといった疑問がありました。なぜ、このような事が赤字で書かれているのかと色々と調べた結果、やはりお金の出どころが防衛装備庁ということがあり、「これは軍事研究だ!」と声を上げる人もいるという事です。私としては研究費をくれるならお金の出所なんてどこでもいいかと考えていますが、世間はそうはいかないわけです。
色々調べた結果、この防衛装備庁の公募には以下のような噂・噂というか本当の話があふれていました。
- 日本学術会議がこの制度を軍事研究としており、応募すること自体を反対している
- 本制度に採択された教授に圧力をかけ研究を辞退させた
- 制度に採択されていると大学との共同研究を断られる場合がある
調べれば調べるほど、この制度が軍事研究として認識されているため、風評被害が大きいことが分かってきました。私自身も科研費の若手を狙っているので、日本学術会議に反抗する事も出来ないのが現状です。そのため制度としては素晴らしい制度かと思いますが、あまりにも風評被害が大きく手が出せなかったというのが現状でして、私は申請書まで書き上げましたが悩んだ挙句辞退してしましました。
今回このようなデメリットについても触れましたが、デメリットと感じない方がいるようでしたらぜひ応募を検討してみてはいかがでしょうか?
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます。何か皆さんの参考になれば幸いです。
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